2.ニュートロダインの発明について


  米国では本格的なラジオ放送が始まる以前より,わずかながら無線受信用として,受信機の生産が始まっていました。この受信機の回路は,電波を直接増幅する「ストレート方式」でした。ここには3極真空管が用いられていました。この時,真空管内の陽極と格子間にある寄生容量によって発振を起こし,受信機としては大変聞きづらいものでした。この発振を防ぎ,受信感度を上げるには如何にしたらよいか,世界の技術者はこの開発に取り組みました。
  1923年,L.ハウゼンチンは増幅装置の出力信号を逆相にして,コンデンサで入力に戻して干渉をキャンセルする「ニュートロダイン方式」を発明したとの情報が日本に入りました。
この方式は,外部回路配線により,真空管の入力回路(グリッド)と出力回路(陽極)間の静電容量の影響を除去した回路です。  


特許第77857号
「真空球電極間の静電聯結又は静電容量減少方式」
  ところが,すでに1922年に日本の安藤博がこの方式に関する特許を取得しており,この方式を巡って世界的な大論争が巻き起こりました。やがてニュートロダインを最初に発明したのは安藤博である事が世界的に認められました。その後,ニュートロダイン受信機の生産が世界的に始まりました。これは特許第51263号「真空球電極間静電聯結減少又は防止方法」です。このニュートロダインに関する特許では,高周波増幅で生じる寄生振動を防止した特許第77857号「真空球電極間の静電聯結又は静電容量減少方式」,特許第72407号「高周波増幅回路」があります。これを真空管内で対応したのが特許第87348号「多極真空管」です。
  

安藤式ラジオ(昭和初年)
  一方,E.アームストロングは1918年にスーパー・ヘテロダインを発明しています。この方式は,高周波に対応した真空管の生産が困難なために,低い周波数特性を持つ真空管で対応しようとして考え出されました。そして,この方式は実際に使用してみると,大変に選択度が優れていました。しかし,初めの頃のスーパー・ヘテロダイン受信機は中間周波数が低すぎて,局部発信が高周波で妨害されたり,周波数帯域が狭く音質が悪いなど,多くの欠点がありました。 1924年からこの技術を採用したスーパー・ヘテロダイン受信機の生産が始まりました。
  やがて,ニュートロダイン受信機とスーパー・ヘテロダイン受信機の競争が始まりました。両者はしのぎを削って販売合戦が繰り広げられていました。この中で,ニュートロダイン受信機は高感度であり優れた性能を示すのに対し,スーパー・ヘテロダイン受信機は音質が悪かったのです。このためにニュートロダイン受信機は世界的に普及しました。
  その後,スーパー・ヘテロダイン受信機は音質の問題点を克服し,次第に受信方式はスーパー・ヘテロダイン方式に代わって行きました。しかし,ラジオ受信機が発達して行く過程で,ニュートロダイン受信機は非常に大きな役割を果たしました。