ご 挨 拶

-財団創立80周年を迎えて-

   一般財団法人安藤研究所
理事長 安藤 明博


 このたび当財団は、関係各位のご協力により、創立80周年を迎えることになりました。ご指導・ご協力頂きました皆様に心より御礼申し上げます。

 まずはじめに、財団設立者・安藤博のことについて簡単にご紹介申し上げます。
 当財団設立者・安藤博(1902~1975)は、エレクトロニクスの創成期において、ラジオやテレビジョン技術の発展に貢献した発明家で、「日本十大発明家」(1939年)の1人として知られています。幼少の頃から「電波」に関する科学に深い研究心を持ち、独学で智識を吸収して、学生時代には無線放送に不可欠な「多極真空管」という世界的発明を成し遂げたエレクトロニクスの先駆者です。まだラジオすらない大正初年からラジオ放送の実験研究を行い、わが国のラジオ放送開始の機運を盛り上げる事に尽力し、社団法人東京放送局(現.NHK)の発起設立者の1人になりました(1923年)。
 また、ラジオ放送が始まった翌年、1926年にはテレビジョンの放送実験に成功しました。その後、家庭用テレビの技術開発を行い、一般の人々が買える様なテレビの開発に尽力しました。因みに「放送」という言葉の語源については、安藤博が早稲田大学在学中に著した「無線電話」(1922年)の中で初めて「放送」の字句を使ったと言われています。
 そして、安藤博は20才の時にはワシントンで発明王エジソンと会談、26歳の時には、ロンドンで無線の世界的発明家・マルコーニと技術交流を行っています。さらに、テレビジョンで有名なベアードやミハレー、バルクハウンゼン、ジェンキンス等著名な発明家と意見交換を行いました。おそらく、安藤博は若い頃から世界中の一流研究者と交流を持つことで大いに励まされ、その後の研究活動に大きな影響を受けたことと思われます。「エレクトロニクスの開拓者」として、安藤博は生涯研究を続け、数々の発明を成し遂げました。

 ところで、安藤博が晩年に構想を練っていながらも、実現することが出来ずにいたことがあります。それは、「未来のエレクトロニクス研究の発展のために、若手研究者を後押ししたい」という事でした。そこで、当財団では、安藤博没後の1987年(昭和62年)に「安藤博記念学術奨励賞」を創設致しました。この表彰制度は、安藤博の研究人生に因んで若手研究者を対象とし、エレクトロニクスと電子産業の育成と発展を目的に毎年実施しております。
 早いもので、1988年の第1回表彰式から30年の年月が経過し、受賞者総数は140名となりましたが、この研究奨励・表彰事業は今後も毎年継続して行う予定です。
 歴代受賞者はじめ、わが国の多くの研究者達が「世界に誇る技術の発信源」として、今後も益々活躍される事を願ってやみません。

 近年のエレクトロニクスは、デジタルの驚異的な進化によって我々の仕事や日々の暮らし、そして人間関係まで、良くも悪くも大きく変えてしまう、まさに社会の大変革期に入っています。
 「文明の曲がり角」とまで言われている今日、直面する様々な問題の解決には、やはりエレクトロニクスのさらなる研究がこれに貢献すると思います。
 その様な意味におきましても、地道な活動ではありますが、この財団設立者の遺志を尊重し、今後も堅実に研究奨励・表彰事業、そして法人運営に一層努力致す所存です。
 どうぞ引き続き、皆様の暖かいご指導とご鞭撻を心よりお願い申し上げます。